アレルギー性鼻炎の手術療法
アレルギー性鼻炎とは
ハウスダストやスギなどの異物(抗原)への過剰反応をアレルギーと言います。
鼻でアレルギーが起こるとアレルギー性鼻炎(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)、目ではアレルギー性結膜炎(目のかゆみ)となります。また、抗原が血液検査で特定できない血管運動性鼻炎(鼻過敏症)があり、温度変化や機械的刺激、精神的因子などによりアレルギー症状が誘発されます。
アレルギーは遺伝も関係しますが、正常の人がある日突然アレルギー体質を獲得する場合もあります。
蓄膿(副鼻腔炎)は細菌感染であり違う病気ですが、アレルギー性鼻炎により蓄膿が誘発されることがあります。
アレルギー性鼻炎の症状について
アレルギー性鼻炎の治療法について
1.減感作療法(げんかんさりょうほう)
根本的にはアレルギー体質そのものを治すことで、この目的で抗原を少量づつ注射しアレルギー体質を改善する減感作療法と言う治療法があります。
しかし、長期(2〜3年)通院が必要で、しかも効果の確実性に問題がある場合があり、最近はあまり試みられなくなりました。
2.内服薬 点鼻薬
現存するアレルギーの薬は、服用中に症状を抑えることができますが、アレルギーの体質そのものを変える薬は、残念ながら未だありません。
3.手術療法
鼻粘膜焼灼術 アレルギーを起こす粘膜をレーザーなどで焼灼する後鼻神経切断術 アレルギーを誘発する神経(後鼻神経)を切断する。
アレルギー性鼻炎の手術について
期間限定の季節性アレルギーと通年性(ハウスダスト、ダニなど)のものでは、治療法も大きく異なります。血液検査で抗原が決定されます。
季節性アレルギー(花粉症)
季節限定の症状に対しては内服薬や点鼻薬が主体となり、この場合、症状の抑えられる最小の薬剤量を使用します。
一日一回の服用ですむ薬、眠気を押さえた薬、即効性のある薬などを適時組み合わせて症状をコントロールします。
通年性アレルギー 血管運動性鼻炎
通年性アレルギーや血管運動性鼻炎(鼻過敏症)に対して、また季節性アレルギーでも、薬が効かない人、薬を避けたい人などに対して日帰り手術を勧めています 。
1.鼻粘膜焼灼術(7才以上)
当院では、通年性アレルギーの方に対して高周波バイポーラシステムと炭酸ガスレーザーの長所を組み合わせて行う下鼻甲介粘膜の焼灼行っています。【手術+薬剤費:約9.5千円】
レーザーは傷が浅く治りが早いのが特徴ですが、その分再発しやすい欠点があります。高周波は深達度が深く再発が少ないのですが、傷の治りが遅くなります。このため、鼻粘膜の中で比較的創の治りやすい部位には高周波を用いて、それ以外の部分にレーザーを用いる手法をとっています。
15分程度の施術で終了し、痛みは少なく嗅覚にも影響しません。焼灼後1〜2週間は粘膜の腫れによる鼻づまりが生じます。
また10〜20代の若い方やアレルギー体質の強い方などでは、アレルギー粘膜が再生しやすく、鼻炎が再発することがあります。この場合、追加焼灼します。
2.後鼻神経切断術(成人)
レーザー手術などが無効の重症例に対して行います。
鼻水の8割、くしゃみの3〜5割に後鼻神経が関与しており、これを切除します。鼻中隔弯曲に対する鼻中隔矯正術や粘膜下下甲介切除術と組み合わせて行います。重症例でも9割の方に効果が認められています。
手術+薬剤費:高額療養費制度の適応になります。所得にもよりますが、一般的には10万円以下です。
ピンポイント鼻粘膜焼灼術(一般的通年性アレルギーに対して行う)
アレルギー症状を起こす後鼻神経、前篩骨神経を高周波バイポーラシステムを用いてピンポイントに遮断します。
嗅神経(嗅覚)には影響しません。
一般に鼻粘膜焼灼術では、アレルギーを起こす粘膜を広く全面焼灼しますが、その分傷の面が多くなり完全治癒までに時間がかかります。
当院で開発された本法は、粘膜の傷の範囲が少ないため治癒が早く(術後約2週間で粘膜が正常化)、アレルギー症状の抑制効果が高く、再発が非常に少ないのが特徴です。
凍結法を用いた後鼻神経切断術(難治性のアレルギーに対して行う)
鼻腔粘膜焼灼術を行っても症状をコントロールできない高度のアレルギーに対して、より深部にある後鼻神経の本管を露出し、凍結装置(-70度に冷却:クライオサージェリー)を用いてより広範囲な神経遮断を行うものです。
一般に後鼻神経切断術では神経と血管を同時に切断するのですが、この場合術後出血の危険性が高くなります。凍結法では血管がそのまま温存されるため、術後出血の危険性は減少します。また、血流が温存され、鼻の加温加湿機能も温存されます。
鼻の大切な機能(フィルター効果 加温加湿機能)について【通り過ぎる鼻にご注意】
鼻呼吸には、嗅覚以外に空気中のウイルスや粉塵を除去するフィルター効果、喉や気管を守る加温加湿など大切な機能があり、動物では鼻がつまると生きてはいけません。
しかし、通りすぎる鼻にも問題があります。鼻腔内に突出する構造物(下鼻甲介、中鼻甲介)は、空気との接触面積を増やして、加温加湿やフィルターとして働きます。
つまり、鼻の中では、ある程度狭い空間を空気が通過する必要があるのです。
後鼻神経切断術は、粘膜下下甲介切除術と併用する術式が一般的に行われていますが、この場合下鼻甲介骨が大きく失われると、鼻の中の構造物が異常に縮小してしまう恐れがあります。
必要以上に通りすぎる鼻はempty nose 症候群となり、鼻腔内での加温加湿効果、フィルター効果などが失われて慢性的な咽喉頭炎や異物感などの原因になる可能性があります。
また、鼻づまりを治すのは容易ですが、通り過ぎになった鼻を治すのは非常にむずかしいのです。当院では、以前よりこの様な加温加湿機能の研究を行っており、通り過ぎない適度な鼻腔通気性を考慮して手術を行っています。
鼻腔の加温・加湿機能評価の試み ―水分回収率という考え方―
野々田岳夫 細田泰男 大谷真喜子 日本鼻科学会会誌 2012 No4 p450-454