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2023年日本耳科学会発表(細田院長)鼓室形成術と耳管の臨床 そのコラボレーションはいかに?

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鼓室形成術と耳管の臨床 そのコラボレーションはいかに?

2023年 第33回日本耳科学会総会・学術講演会 細田院長発表

細田 泰男 1,梅田 裕生 1,達富 真司 1,内藤 智之 1,馬場 奨 2

1 細田耳鼻科 EARCLINIC 耳鼻咽喉科,2 ばば耳鼻科クリニック 耳鼻咽喉科

鼓室形成術の聴力改善不成功の原因として、鼓膜や耳小骨連鎖などに明らかな異常がない場合には、「耳管機能の悪さ」に要因を求められることがある。その場合も耳管機能障害の具体的内容や程度は明確ではなく、漠然とした耳管機能障害と説明される。術後の伝音障害残存の要因として、再建耳小骨の連続性や可動性の問題に加えて鼓室内の含気化の程度も大きな要因となる。自浄作用が確立された十分な含気腔を持つ中耳の再構築には、耳管機能も大きく関係すると考えられる。中耳が自浄作用を持ち十分に含気化されれば粘膜腫脹も消退し、正常化した薄い粘膜に被われた耳小骨連鎖では、その質量の低下と可動性も改善され伝音効率は上がる。耳管機能が全く正常な耳硬化症や耳小骨奇形症例などでは連鎖再建方法にあまり関係なくABgapがほぼ消失することも多いが、何らかの耳管機能障害を伴うことが多い慢性中耳炎などでは大きく異なることからも理解される。 以上のことから耳管機能障害と鼓室形成術の聴力改善には密接な関係があると考えられ、過去にも多くの報告がなされている。しかし、実際の臨床の現場では「鼓膜、中耳、外耳道に形態的異常も存在することが多い中耳炎耳で耳管機能を正しく評価することは容易ではない」、「例え術前に何らかの耳管機能障害が把握されても、耳管機能障害そのものを解消する方法はない」、「術前の耳管機能がどうであれ、再陥凹予防には軟骨板で対抗する処置を行うことで殆どの問題は解決される」などの理由で、耳管機能を積極的に議論するオペレータは少なくなっているように思われる。しかし、耳管狭窄により術後発生したOMEなどは鼓膜からの透顕困難で見逃されることも多い。また、鼓膜の陥凹が耳管狭窄で起こっているのか、鼻すすり型開放症によるものかは重要な情報である。特に鼻すすりに伴う中耳陰圧は強大で、術前から患者に鼻すすりぐせから脱却して貰うことができれば術後のQOLは大きく改善する。 演者らは、2017年よりTTAG (Tubo-tympano-aerodynamography)を視覚的に捉えるVisible TTAG(V-TTAG)という耳管機能検査を行っている。従来のTTAG が鼻咽腔圧の変動に対する鼓膜の動きを外耳道内圧の変化として表現するのに対して、V-TTAGでは鼓膜の動きを電子スコープによる高解像度の動画として描出する。TTAGにおける外耳道内圧の変化は微細であり、このためエアーリークや体動によるアーチファクトなどが大きく影響するが、V-TTAGではこれらを排除できる。但し、鼓膜穿孔耳では鼓膜動揺が観察できない。この場合は、鼓膜パッチすることで同様の観察が可能となる。V-TTAGでの鼻すすりによる鼓膜陥凹の様子などは、患者への真珠腫発症の病態の説明に大きな威力を発揮する。 L G Duckertらは、2003年に軟骨にT-tubeを貫通させたグラフトで鼓膜を再建し長期留置が可能なCartilage Shield T-tube Tympanoplasty(CSTT)を報告している。術直後は血腫、滲出液などが鼓室内に生じており、特に耳管狭窄症例ではこの時期に換気とドレナージルートが耳管以外に存在する意義は大きい。また、開放耳管における鼻かみや鼻すすりによる圧負荷の回避、自声強聴の緩和などにも有効で、狭窄、開放ともに有益と考えられる。長期留置後にT-tube抜去しても、薄切軟骨で下支えされた穿孔は短期間に上皮で被われ閉鎖する。再挿入が必要となった場合も軟骨の穿孔は残存し透顕でき、この部に挿入可能である。演者の経験上、術中の手間以外にCSTTの目立った欠点は見当たらず、耳管機能の異常があれば積極的にCSTTを用いている。 欧米では、耳管狭窄に対して耳管拡張バルーンの高い有用性が10年以上前から盛んに報告されているが、本邦では未だ限定的である。本邦では、耳管機能障害を専門としている医師と鼓室形成術を専門としている医師の重複は少なく、お互いの議論も少ないように思われる。しかし、耳管機能障害の診断や治療の臨床レベルは非常に高く、耳管ピンなどを含めて、両分野のこれまで以上のコラボレーションはより有益な結果に繋がると想像される。今回は、当院でのV-TTAGとCSTTの実際についてVTRにて報告する予定である。