耳管開放症
耳管(じかん)・・・耳と鼻をつないでいる管のこと
耳管の役割は耳の中の気圧の調整を行なっています。
飛行機に乗った時やエレベーターで急激に高い場所に行った時に、耳がツーンとしたりつまった感じがしてツバを飲み込んだら治るのは、耳管が開いて空気を出し入れしているからです。
- 耳管開放症(じかんかいほうしょう)とは?
ツバを飲み込んだり、あくびの時にだけ開く耳管が、常に開きっぱなしの状態のことを言います。この場合、鼻腔と中耳腔が常時つながってしまうことで、鼻腔内の音と空気圧変動が中耳に伝わり、いろいろ不快な症状が出現します。
耳管開放症の原因について
身体的ストレスや全身疾患
過剰なダイエットなどによる体重減少や脱水
女性では、妊娠や経口ピルの服用 先天的に耳管が開放状態にある方もおられますが、原因不明の場合も多いです。
耳管開放症の症状について
多くの方がいちばん感じる症状は、自声強調(じせいきょうちょう)という自分の声や呼吸音が大きく聞こえる、耳や頭に響くことです。自分の呼吸音で聞きたい音が聞こえにくくなります。また、自分がどれくらいの大きさで喋っているのかわからなくなります。常にこの状態が続くと、会話も苦痛になり日常生活に大きく支障がでることがあり、うつ病的症状にまで発展することがあります。
また、鼓膜が呼吸とともに動揺することで、耳の違和感、閉塞感(耳閉感)を感じることもあります。
下を向いたり、横になったりすると耳管は閉鎖するので、一時的には症状が改善されます。
また、無意識のうちに鼻すすりをして、中耳腔を陰圧にして鼓膜を凹ませ、耳管を閉鎖して症状を回避している患者様もおられますが、これはよくありません。
耳管開放症の検査・診断について
耳管開放症であるかどうかは、問診、聴力検査、CT、耳管機能検査などから慎重に診断します。特に問診で重要なのは、横になったときに自声強調(ご自分の声が響く)が消失するかどうかです。
誤診されやすい疾患(鑑別診断)として耳管狭窄症、耳管閉鎖不全、伝音性難聴(滲出性中耳炎、初期の耳硬化症など)、内耳性難聴(低音障害型感音性難聴、めまい症、メニエール病など)などがあります。これらの疾患では同じように耳閉感や異常感を強く訴えられ、診断を誤ることもありえます。また、耳管開放症は、耳管狭窄症あるいは耳管閉鎖不全(耳管開放症を鼻ススリで解消している状態)と合併している場合もあり、体調や時間帯でも変化する場合があります。しかしながら、それぞれの治療法は異なるので正確に診断する必要があります。
耳管開放症の確定診断としては鼻深呼吸時の鼓膜の呼吸性変動を確認することです。この目的で以前から一般的に用いられる耳管機能検査としてTTAG(耳管鼓室気流動態法)という検査法があります。これは、耳管開放症では鼻咽腔圧の変化と共に鼓膜の動揺が起こるのですが、この時に発生する僅かな外耳道圧の変動を測定する方法です。この方法の欠点として、頭の動きや顎の運動、検査時の力みなどにより測定時にエラーが混入しやすいことです。
これに対して当院では、TTAGの原理を生かして、鼻咽腔圧の記録と同時に直接鼓膜をファイバースコープで観察するVisible TTAGという検査法を開発し発表(2018年 日本耳鼻咽喉科学会)しました。この方法により誤差の影響を少なくし、さらに患者様にも鼓膜の動揺をモニターで確認してもらえるようになり、より説得力のある検査として活用しております。
○鑑別診断(診断上の注意)
・耳管閉鎖不全
典型的な耳管開放症では自声強調(ご自分の声が響く)があるのですが、耳管閉鎖不全ではこの症状がありません。これは、何もしない状態であれば耳管は開放しているのですが、普段は鼻すすりで陰圧をかけて耳管を閉鎖している状態にしているわけです。従って、鼻を強くかんで耳抜きをした時にだけ鼓膜動揺が出現しますが、鼻ススリと同時に消失します。この様な患者様では、常に鼓室内が陰圧になるため、鼓膜が陥凹し、滲出性中耳炎、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎といった疾患に発展することがあります。
・滲出性中耳炎
滲出性中耳炎の多くは、耳管狭窄症により鼻から耳に空気が抜けにくいことで起こると考えられており、治療として耳管通気(鼻からカテーテルなどで耳に空気を送る)を続けるという治療があります。しかし、基礎に耳管狭窄症ではなく耳管開放症があり鼻ススリで耳管を閉じている場合がよくあります。この様な鼻すすり行為は、鼻ススリで自声強調が解消されることを幼児期に無意識のうちに習得されており、病的意識を持たれていないことが殆どです。この場合、基礎に耳管開放症があるわけですから、狭窄した耳管を開大しようとする耳管通気治療は逆の治療していることになります。
・耳硬化症の初期
耳硬化症では、鼓膜の奥に音を伝える耳小骨が徐々に硬くなって音が伝わりにくくなります。この疾患では、鼓膜は正常で初期の場合は難聴も僅かですが、耳閉感や違和感といった耳管開放症に近い症状が起こります。鼻咽腔圧の変化に伴う鼓膜動揺の有無を確実に判断する必要があります。
・低音障害型感音性難聴やめまい症
ストレスなどが原因で内耳に一時的な影響が出る場合、主に低音が聞こえにくくなる低音障害型感音性難聴と言う病態があり、めまいを伴うこともよくあります。 耳管開放症では中耳腔圧の変動が大きいため平行神経にも影響が及びめまいを伴うことがあるとされています。薬で改善されないめまい症や難聴では耳管開放症の有無を確かめる必要があります。
当院での耳管開放症の治療法について
上記のように複雑な病態が絡み合っている場合がありますが、Visible TTAGなどより正確に診断する方法があり、さらにご自分の目で呼吸に伴う鼓膜の動揺や鼻すすりによる変化を実際に映像で確認して頂き病態の理解も促しています。正確に病態が診断されれば、耳管開放症そのものは治療可能な病気と考えています。
軽症例:生活指導(十分な睡眠と水分摂取、体重コントロール)・耳管への生理食塩水の点鼻法と鼻すすりの禁止
中等症:耳管内ゼリー注入
難治性:経鼓膜的耳管内軟骨挿入